【独自取材】子育てと議員活動は両立できる?現役ママ議員の本音
はじめに:子育てと議員活動、その両立は「無理ゲー」なのか?
「子育てしながら議員なんて、本当にできるの?」
これは、子育て世代の女性が立候補を決意したとき、あるいは議員として活動しているときに、最も多く投げかけられる言葉の一つかもしれません。夜間の会合、土日の地域イベント、突発的な陳情対応。24時間365日体制とも言われる議員の仕事と、終わりなき育児。この二つを両立させることは、まるで高難易度の「無理ゲー」のように語られることがあります。
しかし、少子化対策や子育て支援が国の最重要課題となる今、その政策を議論し決定する場に、まさに「当事者」である子育て世代の声が不可欠なのは言うまでもありません。 妊娠・出産を経て約7割の女性が政治への関心を高めるというデータもあるように、子育て世代のリアルな視点は、より実効性のある政策を生み出す原動力となります。
この記事では、現役で子育てをしながら議員活動を行う女性議員への「独自取材」を通して、彼女たちが直面するリアルな困難、それを乗り越えるための知恵と工夫、そして、子育て経験が議員活動に与えるポジティブな影響を明らかにします。子育てと議員活動の両立は本当に不可能なのか?その本音に迫ります。
「独自取材」で見えた、ママ議員が直面する3つの壁
今回、私たちは複数の現役ママ議員に話を聞くことができました。彼女たちの言葉から見えてきたのは、単なる「忙しさ」だけでは片付けられない、構造的な3つの大きな壁の存在です。
壁①:時間的制約 – 24時間では足りない現実
議員の仕事は、議会での質疑や委員会活動だけではありません。むしろ、それ以外の時間外活動が大きなウェイトを占めます。
夜の会合と土日のイベントという慣習
「平日の夜は各種団体の総会や懇親会、土日は地域のお祭りや運動会。これらに顔を出すことが『議員の仕事』だと見なされる風潮が根強く残っています」
そう語るのは、小学生の子どもを持つA市議。こうした慣習は、子どもの夕食や寝かしつけの時間と真正面から衝突します。参加しなければ「付き合いが悪い」「地域を軽視している」と見なされかねず、かといって参加すれば家庭にしわ寄せがいく。このジレンマに多くのママ議員が苦しんでいます。
超党派の地方議員らでつくる「子育て中の議員の活動を考える会」が実施したアンケートでも、未就学児を持つ議員が困難を感じる問題として「早朝や土日、夜の街頭活動が難しい」という回答が最多でした。
突発的な対応と子どものケアの板挟み
「夕方、保育園のお迎え直前に『これから緊急の相談に乗ってほしい』と市民の方から電話が。夫も出張で不在。どうしようかと頭が真っ白になりました」
これはB町議の経験談です。議員には、有権者からの突発的な相談やトラブル対応がつきものです。しかし、子どもの急な発熱や保育園からの呼び出しなど、育児にも予測不能な事態はつきもの。頼れる人が近くにいない場合、議員としての職務と母親としての役割の狭間で、深刻な葛藤を抱えることになります。
壁②:制度・慣習の壁 – 「議員は休めない」という旧態依然の議会
地方議員は労働基準法の適用を受けない「特別職の公務員」です。 この特殊な立場が、子育てとの両立を阻む制度的な壁を生み出しています。
整備が遅れる産休・育休制度
かつて、女性議員が出産で議会を休む場合、その欠席理由は「事故」として扱われるなど、制度が全く追いついていませんでした。 近年、全国市議会議長会などが標準会議規則を改正し、「出産」が正式な欠席事由として明記されるようになり、産前6週・産後8週の産休期間を設ける議会が大幅に増えました。
しかし、これはあくまで「欠席」を認める規定であり、会社員のような育児休業制度はありません。出産議員ネットワークの調査では、在任中に出産した議員の多くが産後2ヶ月以内に復帰せざるを得ない状況が明らかになっています。 議決権の行使ができないことへの責任感や、周囲への遠慮から、無理をして早期復帰するケースが後を絶たないのです。
【引用】ある女性議員の本音
「産休規定ができたことは大きな一歩です。でも、休んでいる間も議員報酬は満額支給されるため、『税金泥棒』といった批判を恐れる気持ちは常にあります。安心して休み、子育てに専念できる環境とはまだ言えません」
オンライン化が進まない「対面至上主義」
子どもの体調不良で委員会を休まざるを得ない時、「オンラインで参加できれば」と願う議員は少なくありません。 新型コロナウイルス禍を機に、総務省は育児や介護などを事由とした委員会のオンライン出席を容認する見解を示しました。
しかし、多くの議会では「審議は対面で行うべき」という考えが根強く、オンライン化は遅々として進んでいないのが現状です。 特に、最終的な議決を行う本会議でのオンライン出席は、地方自治法上「議場にいること」が出席の要件と解釈されており、認められていません。 この「対面至上主義」が、子育てや介護中の議員の活動を大きく制約しているのです。
壁③:周囲の無理解とハラスメントという心の壁
物理的な時間や制度の壁以上に、ママ議員たちを苦しめているのが、周囲からの無理解や偏見、そしてハラスメントです。
「母親なのに」「議員のくせに」という声
「夜の会合を欠席すると『母親だから仕方ない』と憐れむように言われたり、逆に子どもを預けて参加すると『母親なのに子どもを置いて』と陰で言われたり。どちらに転んでも批判の対象になるんです」
C市議は、そう言ってため息をつきます。こうしたジェンダー・バイアス(性別による固定的な役割分担意識)は、有権者だけでなく、議会内部にも根強く残っています。 「子育ては女性の仕事」という古い価値観が、ママ議員の活動に重くのしかかります。
支援者や同僚からのハラスメント
さらに深刻なのは、ハラスメントの問題です。内閣府の調査では、女性議員の57.6%が何らかのハラスメントを受けたと回答しています。
ハラスメントの具体例
- 同僚議員から「子供を産めない女は欠陥人間だ」と言われる。
- 議会で子育て支援について質問すると「まずは自分が子どもを産んだら」とヤジが飛ぶ。
- 支援者から「育児が理由で街頭活動ができないなら、候補者になる資格がない」と言われる。
こうした心無い言葉は、議員としての尊厳を傷つけ、活動意欲を削ぐ深刻な問題です。特に、本来仲間であるはずの同僚議員や支援者からのハラスメントは、彼女たちを精神的に孤立させます。
それでも私が議員を続ける理由 – 困難を乗り越える工夫と「ママだからこそ」の強み
これほど多くの壁に直面しながらも、なぜ彼女たちは議員活動を続けるのでしょうか。取材からは、困難を乗り越えるためのしたたかな工夫と、子育て経験から得られる唯一無二の強みが見えてきました。
1日のリアルなスケジュールを公開!タイムマネジメント術
子育てと議員活動を両立するには、徹底したタイムマネジメントが不可欠です。あるママ議員の1日を見てみましょう。
| 時間 | 活動内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 5:30 | 起床、自分の時間(メールチェック、新聞、SNS更新) | 誰にも邪魔されない早朝に集中して事務作業を行う |
| 6:30 | 朝食準備、子どもを起こす、身支度 | 家族とのコミュニケーションを大切にする時間 |
| 8:00 | 子どもを保育園へ送る | |
| 8:30 | 登庁、会派会議、市民相談対応 | 午前中に重要な会議やアポイントを集中させる |
| 12:00 | 昼食(移動中に済ませることも) | |
| 13:00 | 委員会、議会関連業務 | |
| 17:00 | 退庁、保育園へお迎え | 「17時には必ず帰る」と周囲に公言し、協力体制を作る |
| 18:00 | 買い物、夕食準備、食事 | |
| 19:30 | 子どもとの時間(お風呂、遊び、寝かしつけ) | デジタルデトックスを心がけ、子どもと向き合う |
| 21:00 | 残務処理、翌日の準備、オンラインでの勉強会参加 | 夜の会合は厳選し、オンラインを積極的に活用 |
| 23:00 | 就寝 |
ポイントは、「やらないこと」を決める勇気とテクノロジーの活用です。全ての会合に参加するのではなく、重要度を見極めて取捨選択する。SNSやオンライン会議システムを駆使し、移動時間を削減し、効率的に情報発信や意見交換を行う。こうした工夫が、限られた時間を最大限に活用する鍵となります。
「チーム」で乗り越える – 家族・支援者・同僚との連携
「一人では絶対に無理」。これは、取材した議員全員が口を揃えた言葉です。
家族との徹底した役割分担
夫や両親など、家族の協力は不可欠です。 「議員活動は家族全員で取り組むプロジェクト」と捉え、スケジュール共有アプリを使ったり、定期的に家族会議を開いたりして、情報共有と役割分担を徹底しているという声が多く聞かれました。
仲間との情報共有と精神的サポート
同じように子育てをしながら活動する同僚議員の存在は、何よりも心強い支えになります。 議会内の超党派のママ議員でグループを作り、情報交換をしたり、悩みを相談し合ったりすることで、精神的な孤立を防ぎ、連帯して議会改革を働きかける力にもなります。
子育て経験は最強の政策資源になる
困難の裏返しとして、ママ議員たちは「子育て経験こそが最大の強みだ」と断言します。
当事者目線でのリアルな政策提言
公園の遊具の安全性、保育園の待機児童問題、予防接種の煩雑な手続き、学童保育の不足。これらは、子育ての当事者でなければ気づきにくい、生活に密着した課題です。
【事例】ママ議員だからできた政策改善
東京都北区議の佐藤古都さんは、0歳児の予防接種で保護者が毎回予診票に手書きする負担に着目。質問を重ね、区のシステム改修を実現させました。 このように、日々の生活の中で感じる「ちょっとした不便」や「もっとこうだったらいいのに」という視点が、多くの住民の暮らしを改善する具体的な政策に繋がるのです。
多様な意見をまとめる調整能力
育児は、まさに予測不能な事態の連続です。子どもの感情に寄り添い、家族間の意見を調整し、限られた時間でマルチタスクをこなす。こうした日々の中で培われた忍耐力や調整能力、コミュニケーションスキルは、多様な利害が絡み合う議会での合意形成の場で大いに役立つと、多くの議員が語ってくれました。
変化の兆しは確かにある – 子育て世代の議員を支える制度と社会の動き
旧態依然とした議会の壁は厚いですが、彼女たちの奮闘と社会の後押しによって、少しずつ変化の兆しが見え始めています。
こうした動きは一朝一夕に生まれたものではありません。その背景には、まだ制度が整わない時代から、子育てと議員活動の両立という課題に真正面から向き合い、道を切り拓いてきた先駆者たちの存在があります。例えば、元参議院議員であり、自身も子育てをしながら国政で活躍した畑恵氏のように、後の世代のために奮闘してきた政治家の積み重ねが、現在の制度改善の礎となっているのです。
地方議会から変わる!産休・育休規定の明文化とオンライン委員会の導入
標準会議規則の改正とその影響
2021年の標準会議規則改正により、出産を理由とする欠席が明文化されたことは、画期的な一歩でした。 これを受け、都道府県議会の100%、市区町村議会の約94%(2023年時点)が、本人の出産による欠席規定を設けています。 これまで「議員は休めない」というプレッシャーの中で孤立しがちだった女性議員にとって、制度的な後ろ盾ができた意味は非常に大きいと言えます。
育児・介護も事由に – 広がるオンライン出席の可能性
総務省が、新型コロナ対策だけでなく「育児・介護等の事由」でも委員会のオンライン出席を容認する見解を示したことも、大きな変化です。 これにより、条例や会議規則を改正し、より柔軟な議会運営に踏み出す自治体も出始めています。 まだ道半ばではあるものの、子育てや介護と議員活動を両立するための選択肢が、制度的にも広がりつつあるのです。
国の法改正も後押し – 多様な人材が議会に参加できる環境へ
2022年12月に成立した改正地方自治法では、地方議会の役割や議員の職務が明確化されました。 これは、多様な人材が議会へ参画することを促進する目的も含まれており、子育て世代の議員が活動しやすい環境整備を間接的に後押しするものです。
政党や支援団体のサポート体制
各政党も、女性候補者を増やすための取り組みを強化しています。候補者の公募や育成塾の開催、ハラスメント相談窓口の設置など、子育て世代の女性が立候補しやすい環境づくりが進められています。また、「出産議員ネットワーク」や「Stand by Women」といった超党派の支援団体も、情報交換や政策提言を通じて、現役ママ議員たちの活動を力強く支えています。
これから議員を目指すあなたへ – 現役ママ議員からのメッセージ
最後に、これから議員を目指そうと考えている子育て世代の女性たちへ、取材に応じてくれた議員からのメッセージを紹介します。
不安を乗り越え、一歩を踏み出すために
「不安なのは当たり前。完璧な候補者、完璧な議員なんていません。まずは、地域の課題に関心を持ち、同じ思いを持つ仲間を見つけることから始めてみてください。一人で抱え込まず、家族や友人に相談し、地域の勉強会や議員の報告会に顔を出してみる。その小さな一歩が、未来に繋がります」
あなたの声が、未来の社会をつくる
「議会は社会の縮図であるべきです。しかし現状は、残念ながらそうなっていません。子育ての真っ最中にいるあなたの声、あなたの視点こそ、今の政治に最も必要とされているものです。子育ての経験は、決してハンディキャップではありません。それは、他の誰にも真似できない、あなただけの強みなのです。その声で、子どもたちの未来、そして私たちの社会を、より良いものに変えていきましょう」
まとめ
子育てと議員活動の両立は、決して「無理ゲー」ではありません。しかし、時間的制約、古い制度や慣習、周囲の無理解といった数々の高い壁が存在することも事実です。
今回、現役ママ議員たちの本音に触れ、彼女たちが孤軍奮闘しながらも、知恵と工夫、そして「子育て経験」という強みを武器に道を切り拓いている姿が浮き彫りになりました。そして、その奮闘が少しずつ制度や社会を動かし始めています。
多様な声が響き合う議会こそが、真に豊かな社会を築く礎となります。この記事が、子育てと議員活動の両立について考えるきっかけとなり、一人でも多くの人が政治を「自分ごと」として捉える一助となれば幸いです。



