オーバーサイズTシャツのサイズ選び、販売員時代に伝えていた3つの基準
はじめまして。
フリーでストリートファッションのバイヤーをしている椎名蓮といいます。
独立する前は、大阪のセレクトショップで5年ほど販売員をしていました。
試着室の前でいちばん多かった相談が、実はオーバーサイズTシャツのサイズ選びです。
「大きめに着たいけど、だらしなくなるのが怖い」。
この一言、5年間で何百回聞いたか分かりません。
結論から言うと、オーバーサイズ選びで見るべき場所は3つだけです。
肩幅、着丈、そして実寸。
この記事では、僕が売り場で実際にお客さんへ伝えていた3つの基準を、順番に説明します。
サイズ表の読み方さえ分かれば、試着できない通販でも失敗はぐっと減ります。
後半ではアジア発ブランドを通販で買うときの注意点にも触れるので、そこまで読んでもらえるとうれしいです。
オーバーサイズの失敗は「サイズを上げるだけ」から始まる
売り場で見てきた失敗には、はっきりした共通点があります。
普段Mサイズの人が、同じTシャツのXLをそのまま買ってしまうパターンです。
サイズを2つ上げると、たしかに身幅はゆったりします。
ただ、同時に着丈も首回りも袖丈も、全部が一緒に伸びてしまいます。
結果として起きるのが、次のような状態です。
- 着丈が伸びすぎて、お尻が完全に隠れて寸胴に見える
- 首元がゆるんで、部屋着のようなだらしなさが出る
- 肩の縫い目が落ちすぎて、腕が短く見える
- 袖口が肘の近くまで来て、腕まわりだけ膨らんで見える
オーバーサイズで欲しいのは主に「横」と「肩」のゆとりです。
それなのに番手を上げると、「縦」も「首」も一緒に育ってしまう。
ここが最初の落とし穴です。
大きいサイズを選ぶこと自体が悪いわけではありません。
問題は、どこが大きくなるのかを確認せずに番手だけ上げてしまうことです。
売り場で実際にあった話をひとつ。
「オーバーサイズで着たい」とXLを買っていったお客さんが、翌週「なんか違った」と相談に戻ってきたことがあります。
鏡で見せてもらうと、身幅は理想どおりなのに、首元だけがぱっくり開いていました。
そのブランドは番手が上がると首回りも大きくなる設計だったんです。
本人が欲しかったシルエットは、実は別ブランドのMサイズで手に入りました。
サイズ選びの正解は、番手ではなく設計の中にあります。
同じMサイズでも、服の寸法はまったく違う
もうひとつ、先に知っておいてほしいのがS・M・Lという表記のあいまいさです。
衣料品のサイズには、体の寸法を基準にしたJISの規格があります。
成人男性向けの規格はJIS L 4004で、体系の全体像は一般財団法人ボーケン品質評価機構の解説ページにまとまっています。
この規格は今も現役で、カケンテストセンターの解説によると、2023年3月20日の改正で男女兼用サイズやSS〜5Lの範囲表示が追加されました。
ただ、この規格が示すのは「どんな体型の人に向けた服か」という目安です。
服そのものの仕上がり寸法までは揃えてくれません。
だから同じM表記でも、ブランドとデザインが変われば服の大きさは別物になります。
ユニクロも公式FAQで、実際に商品を測った「商品サイズ(仕上がり寸法)」と、体そのものの「ヌード寸法」をはっきり分けて説明しています。
大手ですらわざわざ分けて案内しているくらい、この2つは混同されやすいわけです。
つまり「自分はMだから」という選び方は、オーバーサイズでは通用しません。
見るべきはアルファベットの表記ではなく、cmで書かれた実寸のほうです。
これはジャストサイズの服なら、そこまで致命傷になりません。
体に沿う服は、多少の寸法差を体が吸収してくれるからです。
ゆとりそのものをデザインとして着るオーバーサイズでは、数cmの差がシルエットの差として全部表に出ます。
表記があてにならない世界だからこそ、次の3つの基準が効いてきます。
販売員時代に伝えていた3つの基準
前置きが長くなりました。
ここからが本題の3つの基準です。
基準1:肩幅は「自分の肩幅+5cm」から始める
オーバーサイズの印象をいちばん左右するのは、身幅ではなく肩です。
目安は、自分の肩幅より5cm以上大きいもの。
このくらいから肩の縫い目が腕側に落ちて、いわゆるドロップショルダーのシルエットになります。
売り場では「肩の縫い目が二の腕に少しかかるくらい」と伝えていました。
試着したら、鏡の前で横を向いて縫い目の位置だけ見てもらう。
たったこれだけで、お客さんの反応が変わることが多かったです。
逆に、肩がジャストサイズのまま身幅だけ大きい服を着ると、「サイズを間違えた人」に見えます。
ゆとりの量より先に、肩の落ち方を確認してください。
ちなみに自分の肩幅が分からない人は、ジャストで着ているシャツの肩幅を測れば代用できます。
体を直接測るより簡単で、誤差も出にくいです。
体型による調整も少しだけ。
なで肩の人は縫い目が落ちやすいので、+5cmだと落ちすぎることがあります。
その場合は+3〜4cmくらいから試してみてください。
逆にがっちりした体型の人は、+5cmでもジャストに近く見えるので、もう1段大きくても大丈夫です。
基準2:着丈は「お尻が隠れるかどうか」で決める
縦の基準はシンプルです。
お尻が隠れるギリギリ、深くてもヒップの真ん中くらいまでにしてください。
お尻がすっぽり隠れるほど長いと、脚の始まりの位置が分からなくなって寸胴に見えます。
ワンピースに近づいていく、と言えば伝わるでしょうか。
僕自身、独立したての頃に長め丈のTシャツを1枚買って、結局ほとんど着ませんでした。
鏡の中では格好いいのに、人に撮ってもらった写真だと胴だけが長い。
着丈の失敗は、鏡より写真のほうが正直に出ます。
パンツのポケットの位置も目安になります。
後ろポケットの上半分に裾がかかるくらいなら、長すぎることはまずありません。
どうしても長め丈を着たいときは、前だけ軽くタックインする手もあります。
腰の位置が示されるので、寸胴化はかなり防げます。
ただ、これはあくまで応急処置です。
毎回タックインしないと成立しない服は、そもそも着丈が合っていないと考えたほうがいいです。
基準3:サイズ表記ではなく実寸で選ぶ
3つ目が、通販が主戦場になった今、いちばん実用的な基準です。
手持ちでいちばんしっくりきているTシャツを1枚、平らな場所に置いて測ってください。
測る場所は次の4カ所です。
| 測る場所 | 測り方 |
|---|---|
| 着丈 | 後ろ襟の付け根の中心から裾までの長さ |
| 身幅 | 脇下の縫い目から縫い目までの直線距離 |
| 肩幅 | 肩の縫い目の端から端までの直線距離 |
| 袖丈 | 肩の縫い目から袖口までの長さ |
細かい測り方の定義は、先ほど紹介したユニクロの公式FAQと同じやり方で構いません。
平置きで測ること、しわを伸ばしてから測ること。
注意点はこの2つだけです。
なお、同じFAQには「測り方によって1〜2cm前後の誤差が出る」という注記もあります。
サイズ表と1cm違うくらいで悩む必要はない、ということでもあります。
比較するときは5mm単位ではなく、cm単位のざっくりした差で判断してください。
この4つの数字をスマホのメモに入れておいてください。
どこのブランドのサイズ表とも、その場で比較できるようになります。
狙い目は「手持ちのベスト1枚より肩幅が5cm前後大きく、着丈の差は3cm以内」あたりです。
僕のメモには、Tシャツだけでなくスウェットとシャツの基準値も入っています。
買い付け先で試着できない場面が多いので、このメモがないと仕事になりません。
一度作ってしまえば更新の手間はほぼゼロなので、通販をよく使う人ほど元が取れます。
ひとつだけ注意があります。
最初から大きく作られている「ビッグシルエット」設計の服は、普段の番手のままでいいことが多いです。
設計済みの服でさらにサイズを上げると、今度は全部が大きすぎます。
これもサイズ表の実寸を見れば判断がつきます。
基準を満たしてもだらしなく見えるときのチェックポイント
3つの基準をクリアしたのに、なんとなく野暮ったい。
そんなときは、サイズ以外の場所を疑ってください。
- 首元がゆるんでいないか(鎖骨が見えるか見えないかくらいが目安)
- 生地にハリがあるか(薄くてとろみのある生地はよれて見えやすい)
- パンツまでワイドにしていないか(上下ともゆるいと重心が下がる)
- 大きなロゴやプリントで子どもっぽくなっていないか
パンツとのバランスは、迷ったら「上がゆるいなら下は細め」を守っておけば大きく外しません。
上下ともワイドの組み合わせは、体型と素材選びの難易度が一気に上がります。
まず細身のパンツで肩と着丈の正解をつかんでから、ワイドとの組み合わせに挑戦する順番がおすすめです。
この中でいちばん差が出るのは、生地のハリです。
オーバーサイズは布の面積が広いぶん、生地そのものが服の顔になります。
同じ形でも、生地がへたっていると一気に部屋着に寄ってしまう。
買った後のケアも、じつはシルエット維持に直結します。
首元のリブは乾燥機に何度もかけるとゆるみやすいので、気に入った1枚ほど陰干しをおすすめします。
販売員時代、「なんかよれてきた」という相談の原因は、たいてい洗濯と乾燥のやり方でした。
そもそもビッグシルエットの流れは、WWD JAPANが振り返っているように、2015-16年秋冬のヴェトモンのコレクションが起点とされています。
出自はハイファッション側なんです。
「安い服をだぼっと着る」文化ではなく、生地とシルエットの設計で見せる文化だという前提は、頭の隅に置いておいて損はありません。
その意味で、僕が最近面白いと思っているのがアジア発のストリートブランドです。
たとえばベトナム・ハノイのHBS(ハノイボーイズスワッグ)。
光を反射するリフレクティブ素材のような加工と、計算されたボックスシルエットが持ち味のブランドです。
現地での人気ぶりについては、日本の取扱ストアを運営するシックスティーパーセントが2020年のプレスリリースで「店舗オープン時に300人以上が並んだ」と紹介していました。
日本へは同じ2020年から、アジアファッション専門の通販セレクトストア経由で買えるようになっています。
僕も買い付けでハノイに通うようになってから、現地の若い子たちの着こなしを定点観測しています。
彼らのオーバーサイズは肩と着丈のバランスがきれいで、だらしなさがほとんどない。
この記事で書いた3つの基準を、感覚でやってのけている印象です。
実際の着こなしのイメージは、HBSのハイエンドなアイテムを季節ごとのコーデで記録しているアーカイブブログを見てもらうのが早いと思います。
オーバーサイズTシャツの「肩の落とし方」と「着丈の止め方」の実例として、かなり参考になります。
そして海外ブランドを通販で買うときこそ、基準3の実寸比較が効きます。
国やブランドが変わればS・M・Lの意味も変わりますが、cmの数字は裏切りません。
まとめ
最後に、3つの基準をもう一度並べます。
- 肩幅は自分の肩幅+5cm以上。縫い目が二の腕にかかるくらいを狙う
- 着丈はお尻が隠れるギリギリまで。隠れきったら長すぎ
- S・M・Lではなく、手持ちのベスト1枚の実寸と比較して選ぶ
オーバーサイズは「大きい服を着ること」ではなく、「どこを大きくするか選ぶこと」です。
売り場を離れた今でも、この考え方だけは変わっていません。
3つ全部を一度に完璧にする必要はありません。
次の1枚を買うとき、肩幅の数字を1回見る。
それだけでも、失敗の確率は目に見えて下がるはずです。
まずは家のクローゼットから、いちばん好きな1枚を測ってみてください。
その4つの数字が、これからの買い物の物差しになります。




